「言葉の意味」が消えていく?意味性認知症(SD)の症状・対応方法などを認知症看護のプロが解説します

「『お茶飲む?』と聞いたのに、キョトンとした顔で湯呑みを見つめている」

「『めがね取って』と言っても『めがねって何?』とピンとこない顔をしている…」

そんな違和感から始まるのが、意味性認知症(SD)です。アルツハイマー型のように「体験したこと」を忘れるのではなく、言葉や物の「正体(意味)」が脳の辞書から消えてしまう病気です。

昨日まで通じ合っていた言葉が、まるで外国語のように聞こえてしまう。

そんな世界で生きるご本人と、どう心を通わせていけばいいのか。今回は、そのヒントを一緒に探っていきましょう。

【意味性認知症の原因は?】

意味性認知症は、脳の横側にある「側頭葉(そくとうよう)」が中心となって萎縮することで起こります。

側頭葉は、私たちが人生で蓄えてきた「言葉の意味」「物の名前」「人の顔」などを詰め込んだ、いわば脳内の百科事典のような場所です。この事典が、少しずつページが抜け落ちるように使えなくなっていくのがこの病気の正体です。

【意味性認知症の症状は?】

先ほど側頭葉の萎縮と言いましたが、側頭葉には左右があります。

左側頭葉の萎縮:物の名前、言葉の意味をヒントがあっても答えられない

右側頭葉の萎縮:人をよく見間違える、家族の顔を忘れるといった特徴があります。

以下に症状を示します。

  • 語義失認(ごぎしつにん):言葉が「音」にしか聞こえない 「『お箸をとって』と言ったら、『オハシ……? オハシって何?』と聞き返された」 など、言葉を音として聞き取り、そのまま繰り返す(復唱)はできますが、その言葉が指す「物」がイメージできなくなります。
  • 物体失認(ぶったいしつにん):見えているのに「正体」が分からない 「掃除機をただの大きな箱のように眺めている」など見えているはずなのに正体が分からないといった例があります。 目の前に物ははっきりと見えているのに、それが「何であるか」という知識と結びつきません。
  • 相貌失認(そうぼうしつにん):顔を見ても「誰か」が一致しない 「長年連れ添った顔を見ても、誰だか分からないような顔をする。『私だよ』とヒントを与えても名前も出てこない」などです。 顔のパーツは見えていても、それが誰なのか、自分とどんな関係なのかという記憶が呼び起こせなくなります。

【意味性認知症の経過は?】

初期:言葉の「ラベル」が剥がれ落ちる時期

一見、普通に過ごせているように見えますが、頭の中の「辞書」が引きにくくなっています。

  • 言葉の脱落: 「あれ」「それ」が急激に増え、少し難しい言葉を聞くと「それって何?」と聞き返すことが多くなります。
  • 読み書きの苦労: 漢字が読めなくなったり、書けなくなったりします(例:自分の住所が書けないなど)。

中期:モノの「正体」がわからず、こだわりが強まる時期

言葉だけでなく、目に見えるモノの「意味」まで消えてしまうため、生活に大きな工夫が必要になります。

  • 物体失認の進行: リンゴを見ても「食べ物」だと分からなかったり、洗剤を飲み物と間違えそうになったりする危険が出てきます。
  • 極端な偏食: 「毎日これしか食べない」というこだわりや、味覚の変化(異常に甘いものを好むなど)が顕著になります。

後期:言葉は消えても「心」が残る時期

発話はほとんどなくなりますが、感情の動きは最期まで穏やかに保たれることが多いです。

  • 無言・無動: 自発的に話したり、動いたりすることが減り、一日の大半を静かに過ごすようになります。
  • 身体的な変化: 食べ物の飲み込み(嚥下)が難しくなり、歩行などの身体機能にも介助が必要になってきます。
  • 心の交流: 言葉による理解はできなくても、優しく触れられたり、穏やかな声で話しかけられたりすることへの「心地よさ」はしっかりと感じ取っています

【意味性認知症の検査は?】

意味性認知症を正しく診断するためには、脳の形や働きを詳しく見る検査が欠かせません。

画像検査(MRI・CT):側頭葉の「左右差」に注目

意味性認知症(SD)の診断において最大の決め手となるのが、脳の横側にある「側頭葉(そくとうよう)」の萎縮です。

参照:理化学研究所
  • 特徴的な痩せ方: 側頭葉の先端部分が、まるでナイフで削り取られたように鋭く痩せていきます
  • 左右の非対称性: 図の矢印のように多くの症例で、左右どちらか一方がより強く痩せる「左右差」が見られます
    • 左側が強く痩せる場合: 「言葉の意味」が分からなくなる症状が強く出ます(多くの方はこちらのタイプです)。
    • 右側が強く痩せる場合: 「人の顔」が分からなくなったり、感情のコントロールが難しくなったりする症状が目立ちます。

【意味性認知症の対応方法は?】

① 「言葉」を「実物」に置き換える

言葉を音として聞き取れても、その中身(意味)が理解できません。無理に思い出させようとしないことが大切です。

  • 事例: 「お茶飲む?」と聞く代わりに、湯呑みをそっと見せる
  • ポイント: 言葉は「聞き慣れない外国語」のように聞こえていますが、実物を見れば「あ、これは飲めるものだ」と本能的に理解できることが多いです。

② 「文字」ではなく「写真・イラスト」で誘導する

漢字やひらがなは、ただの「図形」に見えてしまっています。

  • 事例: トイレのドアに「トイレ」と書かず、便器の写真を貼る
  • ポイント: 写真やピクトグラム(マーク)は、言葉の辞書を通さなくても直感的に「場所」と「目的」を結びつけてくれます。

③ 安全のために「見せない工夫」(誤食対策)

物の「正体」がわからなくなると、危険なものを食べ物と間違えることがあります。

  • 事例: 石けんや洗剤など、食べ物と見間違えそうなものを視界から隠す
  • ポイント: 「食べちゃダメ」と説得しても、数秒後にはまた「美味しそうな物」に見えてしまいます。物理的に見えない場所に片付けるのが、お互いに一番ストレスのない安全策です。

(まとめ)

意味性認知症は、言葉や物の「意味」が少しずつ脳から消えていく病気です。昨日まで通じていた言葉や名前が届かなくなる毎日は、ご家族に不安や戸惑いの連続かもしれません。

けれど、知識としての記憶は失われても「安心する」「心地よい」という感情は最期まで残ります

言葉での説明を少しお休みして、実物を見せたりただ隣に寄り添ってぬくもりを伝える。

そのような「言葉を超えた心の交流」こそが、意味を忘れた世界で日々不安と戦う本人を支える一番の薬になります。

一人で抱え込まず、言葉に頼らない新しい関係性を築くためにこの記事を参考にしていただければ嬉しいです。

最後まで読んでいただきありがとうございました。

他にも、現場の視点から生まれたケアの知恵をたくさん用意しています。あなたの毎日に寄り添うヒントが、きっと見つかるはずです。ぜひ、他の記事もあわせてご覧ください。

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