こんにちは。認知症認定看護師のヒッコリーです。
大切なご家族や周囲の方が、入院してすぐに辻褄の合わないことを言い始めたり、急に興奮して落ち着かなくなったりしたとき、「認知症が急に進んでしまったのだろうか」と思われる家族に多く出会ってきました。
しかし、その急激な変化は認知症ではなく、「せん妄(せんもう)」という一時的な脳の混乱状態である可能性があります。
今回は、混同されやすい「認知症」と「せん妄」の違いや、せん妄を引き起こす「3つの因子」の仕組み、そして家族や医療者ができる向き合い方について、わかりやすく解説していきます。
1. 「せん妄」とは何か?

せん妄は、脱水、感染、貧血、お薬(薬物)の影響など、「からだに何らかの負担がかかったとき」に生じる脳の機能の乱れです。
決して「認知症が急に進んだ」わけでも、精神の病気になったわけでもありません。「からだの病気や不調のサイン」として、脳が一時的にパニックを起こしている状態と言えます。
適切な治療やケア、環境の調整を行うことで、多くの場合、症状が元通りに改善することが大きな特徴です。
2. せん妄を引き起こす「3つの因子」

せん妄はある日突然起こるように見えますが、実は以下のような「3つの因子」が重なり合うことで発症します。

- 準備因子(もともと持っている要因) 高齢であること、認知症の既往、脳卒中など、もともと脳の抵抗力が少し低下している状態を指します。
- 直接因子(直接的なきっかけ) 手術、脱水、感染症、不適切な薬物、からだの痛みなど、脳に直接的な負担をかける身体的なきっかけです。
- 誘発因子(悪化させる要因) 入院や転居による「環境の変化」、身体拘束、睡眠障害、不安など、心理的・環境的なストレスが症状をさらに悪化させます。
もともとのベース(準備因子)があるところに、からだの不調(誘発因子)や環境のストレス(促進因子)が加わることで、脳のバランスが崩れてしまうのです。

特に赤丸で囲っている「誘発因子」への介入が大切です。特に病院だと「痛み」へのアプローチが重要です。せん妄状態の人は自ら「痛い」と言えません。痛み止めを使うだけで驚くほど落ち着くケースがあるのでオススメです。
3. 認知症とせん妄の主な違い

これら二つは症状が似ていますが、その背景や経過には以下のような明確な違いがあります。
| 項目 | せん妄 | 認知症 |
|---|---|---|
| 発症のスピード | 急激に起こる 数時間〜数日の間に突然症状が現れます。 | 緩やかに進む 数ヶ月〜数年単位で、少しずつ症状が進行します。 |
| 主な原因 | からだへの一時的な負担が引き金 | 脳の病的な変化 脳の神経細胞が少しずつ減少することなど。 |
| 症状の変動 | 時間帯による波(日内変動)が大きい 夕方〜夜間に悪化しやすく、一日中変動します。 | 比較的一定している 時間帯による変化がせん妄ほど激変することはありません。 |
| 意識の状態 | 意識がぼんやりする 注意力が低下し、会話に集中できなくなります。 | 割と意識ははっきりしている 意識はしっかりしていますが、物忘れや見当識の障害が見られます。 |
| 治療の見通し | 回復が可能 原因の治療や環境調整で良くなります。 | 緩やかに進行する 認知症は完全回復しません。進行を遅らせるケアが中心となります。 |
※認知症がある方(=準備因子を持っている方)は、脳の抵抗力が低下しているため、せん妄を併発しやすい(せん妄になりやすい)という重要な関係性があります。
4. せん妄のときに見られる具体的なサイン
せん妄状態になると、以下のような変化が急激に出現します。
- 意識がくもってぼんやりしている、もうろうとして話のつじつまが合わない
- 朝と夜を間違える、病院と家を間違える、家族のことがわからない(見当識障害)
- 治療中であることを忘れて、点滴などのチューブ類を自分で抜いてしまう
- 焦燥感が強く、目がギラギラして怒りっぽく興奮する
- そこにないものが見えると言ったり(幻視)、あり得ない思い込みを語る(妄想)
- 夜に全く眠らなくなる
一般病院ではおよそ20~30%の患者さんに上記の症状がみられます。
5. そばにいる家族や医療者ができること

では、せん妄を予防するため・症状を改善するために私たちができることとは何でしょうか?
目の前で混乱していると、つい焦って「ここは病院だよ」「そんなものは見えないよ」と正論で説得したくなってしまうものです。
しかし、無理に話を修正しようとすると、強い不安や興奮に繋がってしまった経験がみなさんありますよね?
そこで望ましい対応を下記に簡単に示しています。
- 患者が安心できる環境調整 ①見当識を促す:時計とカレンダーの設置 ②家族や友人との定期的な面会 など、本人が周囲を理解できて安心できるような環境調整を行っていきます。
- 専門職への相談(誘発因子の治療) せん妄は「からだの不調」が直接の引き金(誘発因子)になっています。様子が急におかしいなと感じたときは遠慮なく医師や看護師に相談し、脱水の補正や痛みのコントロールなど医療チームと一緒にアプローチしていくことが大切です。
最後に
せん妄はからだの症状の一つであり「気持ちの持ちよう」や「心の問題」ではありません。
「ぼけてしまった」「精神的におかしくなってしまった」訳でもありません。
適切に治療を行えば、半数以上の患者さんは症状が改善すると言われています。
変化の背景にある原因を見極め、適切なケアを重ねていくことが、ご本人らしさを取り戻す一番の近道となります。
専門職も一緒にサポートいたしますので、いつでも声をかけてください。
最後まで読んでいただきありがとうございました。他にも、現場の視点から生まれたケアの知恵をたくさん用意しています。あなたの毎日に寄り添うヒントが、きっと見つかるはずです。
