「その認知症、まだ治せるかも!?」知っておきたい治療可能な疾患と対処法を認知症認定看護師が解説します

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「最近、物忘れが増えて急に元気がなくなった」「歩き方がおかしくなった」…身近な方にそんな症状が見られると、「年のせい」あるいは「アルツハイマーなどの認知症が進行してしまったのかな」と思ってしまいがちです。

しかし、一見すると認知症のように見える症状の中には、原因を突き止めて正しく治療すれば、症状の改善や完全な回復が十分に期待できる『治療可能な疾患(Treatable dementia:トリータブル ディメンチア)』が存在します。

今回は、2026年現在の最新の医療知見も交えながら、ご家族やケアスタッフが日々の生活の中で、治せる認知症に気づくための具体的なサインと、その対処法について、認知症認定看護師の視点から詳しく解説します。

代表的な「治療可能な認知症」4つの疾患と詳しいサイン

最新の脳神経外科・内科の臨床データにおいても、以下の4つは「見逃してはならない治せる認知症」の筆頭に挙げられます。

1. 正常圧水頭症(NPH)

脳の中にある「脳脊髄液」という液体が過剰に溜まり、脳(特に大脳白質や前頭葉)を内側から圧迫してしまう病気です。溜まった髄液をお腹などに流す手術(髄液シャント術)を行うことで、多くの患者さんで劇的な症状の改善が期待できます。

  • 【詳しい特徴と気付きのサイン】
    • 特徴的な歩行障害(すり足・開脚): パーキンソン病のように上半身が前傾して小刻みに歩くのとは異なり、「足を左右に大きく広げ、地面をこするようなすり足」(下記画像参照)になります。一歩目が出にくく、まるで足の裏に磁石がついているかのように地面から離れないのが特徴です。
    • 2〜3か月での急激な変化: アルツハイマー型などは何年もかけてゆっくり進みますが、水頭症の場合は「この2〜3か月の間に急に歩き方がおかしくなった、トイレまで排尿が間に合わなくなった」と、進行のスピードが速いのが特徴です。
    • 自発性の低下: 物忘れそのものよりも、前頭葉が圧迫されることによって、ボーッとして自分から何も行動しなくなったり、周囲への関心が薄れたり(アパシー)、衣服の着脱やボタン留めがうまくできないといった症状が目立ちます。
【NPHの歩幅の特徴】
一番左が正常圧水頭症の方の歩き方になります。 歩幅は左右に広くなりますが、前後は小さいのが特徴です。                               参照:医療法人 新松田会 愛宕病院ホームページ

2. 慢性硬膜下血腫(CSDH)

頭をぶつけた後、頭蓋骨と脳の隙間(硬膜の下)にじわじわと血が溜まり、血の塊(血腫)が脳を外側から圧迫する病気です。頭蓋骨に小さな穴を開けて血腫を洗い流す、比較的短時間の外科的手術で劇的に回復することが多い疾患です。

参照:社会福祉法人 恩賜財団 済生会 ホームページより
  • 【詳しい特徴と気付きのサイン】
    • 「3週間〜数か月前」の出来事が原因: 頭をぶつけてすぐではなく、3週間から数か月ほど経ってから徐々に血腫が大きくなり、症状が現れます
    • 本人が忘れるほどの軽い打撲でも起きる: 「転んで頭を強く打った」という明確なエピソードだけでなく、高齢者の場合は「家具の角に頭をちょっとぶつけた」「鴨居(かもい)に当たった」という、本人が忘れてしまうほどのごく軽い衝撃(微小頭部外傷)でも、予定日を過ぎてから血腫ができることがあります。特にお酒をよく飲む方や、脳梗塞・心臓病の治療で「血液をサラサラにするお薬(抗血栓薬)」を飲んでいる方はリスクが高まります。
    • 日によって変わる症状や片麻痺: 急に認知症のような言動が出たり、日によって「しっかりしている時間」と「混乱している時間」の波(意識の変容)が激しかったりします。また、脳の片側が圧迫されるため、「片方の足だけが突っかかる」「お箸やコップをよく落とす」といった軽い片麻痺(運動障害)や、言葉がうまく出なくなる症状を伴うことがあります。

3. 一過性てんかん性健忘(TEA)

高齢になってから初めて発症する「てんかん(高齢者てんかん)」です。

てんかんと聞くと「全身が激しくけいれんする」イメージがありますが、高齢者のてんかんはけいれんを伴わないことが多く、抗てんかん薬(少量のお薬)が非常によく効きます。

  • 【詳しい特徴と気付きのサイン】
    • 短時間の記憶障害が頻繁に起きる: 比較的急に数分〜数十分だけ「直前の出来事」の記憶がすっぽり抜け落ちるような発作が、頻繁に(月に1回〜週に数回など)起こるようになります。さっきまで話していた内容や、直前に食べた食事のことを完全に忘れてしまいます
    • 発作時以外の時間は「普段通り」: 記憶障害が起きている時間以外は、これまでの暮らしや会話と大きな違いがなく、ごく普通に過ごせているのが大きな特徴です。
    • 一点を見つめてボーッとする: 会話の途中で「ときどき一点を見つめてボーッとしてしまい、声をかけても反応しない時間(数十秒〜数分)」があります。周囲からは「また物忘れが始まった」「ぼんやりすることが増えた」と見過ごされがちですが、これがてんかんの「焦点発作」である可能性があります。

4. 甲状腺機能低下症

喉のところにある甲状腺から、全身の代謝を活発にする「甲状腺ホルモン」が出なくなる病気(橋本病など)です。

特に中高年の女性に多く見られ、不足しているホルモンをお薬で適切に補うことによって、元の活気を取り戻すことができます。

  • 【詳しい特徴と気付きのサイン】
    • 全身の活動性がガクッと落ちる(仮性認知症): 脳の働きだけでなく全身の代謝が低下するため、頭の回転や言葉のスピードが遅くなり、何もする気が起きなくなります。この「活気のなさ」が、高齢者のうつ病や認知症(意欲低下)と間違えられやすい原因です。
    • 体調の明らかな変化を伴う: 認知症の症状に加えて、以下のような「体全体のサイン」が一緒に現れます。
      • 顔(特にまぶた)や手足が常にパンパンにむくんでいる(押しても痕が残りにくいむくみ)
      • 周りの人が暑がっているのに、一人だけ強い寒がる様子がある
      • 食事量は増えていない、むしろ減っているのに体重が増える
      • 皮膚がガサガサに乾燥する、髪の毛が抜ける、便秘が続く

これらの症状があれば甲状腺機能低下症を疑いましょう。

その他に見逃せない原因と「仮性認知症」

最新のガイドラインや文献では、これら4つのほかにも以下の原因が「治療可能」として重視されています。

  • ビタミン欠乏症(B12・葉酸・B1): 脳の神経維持に必要なビタミンが不足すると、貧血がなくても重度の記憶障害や思考緩慢が起こります。特に、過去に胃がんなどで胃の切除手術をしたことがある方は、数年後にビタミンB12の吸収障害が起きやすいため注意が必要です。ビタミンB1はアルコール依存症の人が、アルコールの代謝の際にビタミンB1を消費するので不足しやすいです。
  • 薬剤起因性の認知機能低下: 高齢になると腎臓や肝臓の代謝機能が落ちるため、市販の睡眠改善薬、安定剤、一部のアレルギー薬(抗ヒスタミン薬)などの影響で、認知症そっくりの「せん妄」やふらつきが引き起こされるケースが多々あります。
  • うつ病による「仮性認知症」: 高齢者のうつ病は、気分の落ち込みよりも「物忘れがひどい」「集中できない」という認知症状が前面に出ることがあります。認知症と違い、本人が「物忘れがひどくて辛い」と強く悩んだり、検査で「わかりません」と最初から諦めて答えたりする傾向があります。これも適切な抗うつ治療で改善します。

病院で行われる具体的な検査

では、これらの症状が出たらどうすれば良いかと言うと、早めの受診を強くお勧めします。

早期受診にて以下のような検査で速やかに見分けることができます。

  1. 頭部CT / MRI検査: 水頭症による脳室の拡大や、硬膜下の血腫、脳腫瘍の有無が一目でわかります。
  2. 血液検査: 甲状腺ホルモン(TSH, FT4)の値や、ビタミンB12・葉酸の濃度、電解質バランスを測定し、内科的要因をあぶり出します。
  3. 脳波検査: 一過性てんかん性健忘(TEA)が疑われる場合、脳の電気活動を記録しててんかん波がないかを確認します(TEAの約3割に脳波異常が見られます)。

これらの検査により診断がつけば、早めの対応ができて、後遺症を残さずに認知症を改善することができます。

まとめ:「いつもと違う」を感じたら専門医へ

「治療可能な認知症」の最大のポイントは、「早期発見・早期治療」にあります。脳が圧迫されている期間や、ホルモンが不足している期間が長くなりすぎると、脳神経に不可逆的な(元に戻らない)ダメージが残り、せっかく治療しても回復が限定的になってしまうことがあるからです。

ヒッコリー
ヒッコリー

「治る認知症」においてよくある症状は、

「2〜3か月という短い期間で、急激に症状や歩き方が変わった」

「ボーッとする時間と、普段通りの時間のはっきりとした波がある」

「物忘れだけでなく、すり足、むくみ、寒がりなどの体調変化を伴っている」

の3つです。これらのどれかに当てはまっている場合は、すぐに病院を受診しましょう。

このような「いつもと違う変化」に気づいたら、「年のせい」と諦めたり、そのまま様子を見たりするのではなく、まずは早めに専門医(脳神経外科、脳神経内科、精神科、もの忘れ外来など)を受診して、適切な検査を受けましょう

「おかしいな」というご家族やスタッフの気づきと、一歩踏み出した早めの受診が、大切な人のこれからの暮らしと笑顔を健やかに守る第一歩になります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。他にも、現場の視点から生まれたケアの知恵をたくさん用意しています。あなたの毎日に寄り添うヒントが、きっと見つかるはずです。

参考資料:まるごと図解 認知症 キャラクター分類でよくわかる 山口博/著

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